第659回 エストロゲンと乳癌 その1

10月最初の週末は生憎の雨模様のようです。
昨日、栄養医学研究所に届いた1通の手紙を紹介します。 その手紙は名古屋に住む40歳前半の女性からのものでした。2年前まで名古屋市内の病院で内科の勤務医をしていた女性で、体調を崩し医師を続けることができなくなったそうです。
2か月前に名古屋の大きな病院の婦人科で乳がん検診を受けたところ、右の乳房に小さな腫瘍が見つかり、今月摘出をすることになったそうですが、主治医の婦人科のドクターから、女性ホルモンのエストロゲンが多い体質(?)のようなのでその腫瘍の原因もエストロゲンによるものだろうと言われたそうです。
相談の内容はエストロゲンを抑えるような栄養素や食事方法、またサプリメントがないものかというものでした。
昨日、今日、私はインターネットで「エストロゲン」と「乳がん」のキーワードで検索をかけてみて、あたかもエストロゲンが乳がんの元凶で、あるサイト(クリニックでしたが・・)ではエストロゲンが多くなることによって乳がんの発症リスクが高くなるというような情報があったことには驚きました。
私が驚いた理由は2つです。
1つ目は、「エストロゲンが多くなることによって乳がんの発症リスクが高くなる」という説明ですが、もしエストロゲンの生産と分泌量が多くなると乳がんの発症リスクが高くなるのであれば、20歳代の出産経験のある女性が乳がんになる確率が高くなり、閉経を迎えた中高年女性では逆にその確率は低くなるはずです。
以下の数値は2005年にアメリカの「Cancer and Nutrition」誌で発表されたアメリカ人の年齢別の乳がん発症確率です。
25歳まで:19、608人に1人
30歳まで:2,525人に1人
40歳まで:217人に1人
45歳まで:93人に1人
50歳まで:50人に1人
55歳まで:33人に1人
60歳まで:24人に1人
65歳まで:17人に1人
70歳まで:14人に1人
75歳まで:11人に1人
80歳まで:10人に1人
85歳まで:9人に1人

人種が異なるので多少の誤差はあるかもしれませんが、乳がんの発症リスクは数値のように年齢が高くなるについれて高くなることがわかります。

2つ目の理由はエストロゲンには少なくとも以下のように3つの種類があり、この3つを総称してエストロゲンと呼んでいることから、アメリカやドイツ、フランスで乳がん予防のための検診検査で行われているように、エストロゲンの中でもどの種類が多いのか少ないのかを確認したうえで、その背景作用を説明するべきではないかと思うわけです。
・エストリオール(Estriol)
・エストロン(Estrone)
・エストラジオール(Estradiol)

乳がんの発症にかかわる作用を強く持っているのはエストロンとエストラジオールで、エストリオールについてはほかの2つに比べその作用が弱いだけでなく、逆に放射線によって引き起こされるような細胞のがん化を抑える働きがあることが2004年1月にアメリカで報告されています。

日本でも閉経を目前にした中高年女性に対する「ホルモン補充療法(HRT)」の中でこのエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの処方をされますが、本来はこの3つのエストロゲンの量を検査したうえで、どの種類のホルモンを補充する必要があるのか、またそのホルモンは馬の尿から合成されたホルモンを使うべきなのか、人間の体内で作られるホルモンと同じナチュラルなホルモンを使うべきなのかを含めて決定されるべきです。

次回は栄養素と食事による乳がんの予防とエストロゲンについてです・・
by nutmed | 2009-10-02 17:05