第917回 葉酸(Folate)が乳がんのリスクを下げる

先週末は仕事で新潟市内に行ってきました。この時期の新潟にしては気温も高く薄着でも過ごせるほどの陽気。新潟と言えば酒処。日本酒はからきしダメな私なんですが、25年ぶりに越の寒梅の特選と言う貴重な日本酒を冷酒でなめる程度いただきましたが、米の豊潤な香りが鼻から抜けていき、さわやかな味がしました。

さて、今日は葉酸が乳がんのリスクを下げるという話ですが、最初に少し難しい話になるかもしれませんが、ついてきてくださいね。葉酸(Folate)については今年の6月のブログで2回にわたって最近のトピックを紹介しているので、こちらを参考にしてください。
皆さんは亜硝酸塩という物質をご存知でしょうか? ネットで亜硝酸塩と検索してみると「発がん性」に関わる物質であることがエビデンスとともに沢山ヒットすることと思いますが、日本ではこの亜硝酸塩は食品添加物としての使用が許可されているほか、作物の肥料として畑に播かれる硝酸(硝酸石灰)が作物の中に蓄積した後、それを食べた人間の体内で亜硝酸塩に変化もします。食品添加物としては亜硝酸ナトリウムとして発色の目的で、食肉製品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、鯨ベーコン、いくら、すじこ、たらこに添加が許可されており、皆さんの食卓にはほぼ毎日何らかの形で登場する食材だと思います。使用が許可されている量は100gあたりに最大で0.7g(700mg)です。この数字は覚えておいてくださいね。
さて、亜硝酸塩とがんのリスクについては沢山の研究、調査報告が発表されていますが、乳がんもその1つです。 お隣韓国の研究チームが2007年から継続している、亜硝酸塩と乳がんの関係の調査報告を暫時発表していますふが、この研究チームの報告によると、乳がんを発症した女性を調べると、亜硝酸塩(ナトリウム)が含まれた食材の摂取が多いことがわかります。日本でも以前亜硝酸ナトリウムの発がん性が話題になったときに、ビタミンC,ビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化物質を積極的に摂ることで、発がんリスクを抑えることが話題になりましたし、世界的にもこれらの抗酸化物質が亜硝酸塩の発がんリスクを抑制する研究報告があります。今回の韓国の研究チームの報告で興味を引くのは、乳がんを発症した女性のグループと乳がんを発症していない女性のグループでは、亜硝酸塩の摂取に大きな差はないことです。彼らの報告では、乳がん発症グループでは平均1日あたり421mg、そうでないグループでは424mgの亜硝酸塩を摂取していて、むしろ乳がんを発症していない女性グループのほうが亜硝酸塩の摂取が多いことです。もう1つ興味深いことは、この両グループが摂取している亜硝酸塩の54%が韓国伝統食材の「キムチ」に含まれているということです。この背景にはキムチに使われる白菜の畑に播かれる硝酸石灰によるものと、一部は発色のための食品添加剤の可能性があるようです。 この研究チームは、乳がんを発症したグループとそうでないグループの食材と摂取しているサプリメントの状況をアンケートでヒアリングし、双方の摂取食材と栄養素の違いを比較したところ、双方が食材から摂取しているビタミンC、β-カロテン、ビタミンE、葉酸および繊維質の量に差は見られませんでした。ところが、乳がんを発症していない女性のグループでは、大豆プロテインとシイタケを豊富に食べていることと、マルチビタミンミネラルを積極的に摂取していることがわかりました。
しかし、調査を進めていくと、双方のグループに共通しているビタミンC、β-カロテン、ビタミンE、および繊維質の摂取によって、亜硝酸塩によると思われる乳がんの発症リスクには変化は見られませんでしたが、葉酸の摂取によって亜硝酸塩による乳がん発症リスクが抑えられている可能性があることがわかりました。
この研究チームは、亜硝酸塩が含まれる食材を摂取には注意を促すとともに、葉酸の摂取が乳がんのリスクを抑えると報告しています。亜硝酸塩(ナトリウム)は、先に紹介したように、日常的な食材に添加物として使われているわけですし、天然の野菜にも肥料からの硝酸が継承されていることを考えると、葉酸(Folic acidではなくFolate)の積極的な摂取は乳がんの発症リスクを下げるためにも有効なビタミンであると言うことですね。
by nutmed | 2010-10-04 16:11