第946回 ビタミンB12の不足について 疑問

ビタミンB12の不足によって起きる症状の話題に入る前に、「摂取量」と「吸収量」について少し説明しておく必要があるので、今日はこのポイントをお話します。
以下のグラフは毎年国によって行われている、国民栄養調査の資料ですが、これを見ても、戦後に比べて動物性たんぱく質の量は激増していることがわかります。
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この背景には、日本人の食が欧米化し、肉を食べる機会が増えたことがあるわけですが、以前に比べ動物性たんぱく質の摂取量は劇的に増加をしていますから、動物性たんぱく質から得られるビタミンB12の摂取量も欧米並みになっているはずですよね? 
ここで考えなくてはいけないことは、日本でもアメリカでもこうした栄養素のデータの基本になっているのは、「摂取量」であり、口から食べた栄養素の量ということです。つまり、あくまでも食べてた食材に含まれる栄養素の量であって、消化分解されて吸収された「吸収量」ではないということです。日本の場合、国民栄養調査では、協力をお願いしているボランティアの人が食べた食材を見て、一般的に公表されているその食材に含まれる栄養素(たんぱく質、炭水化物、脂質)の数字を合計した「摂取量」で、摂取した栄養素のどれくらいが吸収されているかを表した「吸収量」ではないということです。「吸収量」を求めるには、血液や尿、便などの検査をすることになりますから、膨大な費用と時間がかかるため、そこまでは行っていないのが現状だと思います。
「リンやカリウムは、多くの食材に含まれるだけでなく、加工食品の多くに添加されているため、不足することはない」。こんなコメントは、皆さんもたまに耳や目にすることがあると思いますが、このコメントの背景にある数字は、おそらく日本人の栄養摂取量や加工食品に含まれている栄養素の添加量をもとにしているのであろうと思います。 このようなコメントをする人は、食べた食材からリンやカリウムが間違いなく吸収され、体内で代謝されることを前提にコメントをしているわけでしょうが、食べて摂取した食材が消化分解され、栄養素が必ず吸収されることはあり得ないということを考えなくてはなりません。 このブログの読者の皆さんはその点を十分理解していると思いますが、単純に考えても、栄養素を吸収するためには、胃酸と酵素という条件が揃っていなければなりません。
話はビタミンB12に戻りますが、アメリカの栄養療法医師や栄養士の多くは、これだけ動物性たんぱく質の摂取量が増加しているにもかかわらず、ビタミンB12が不足傾向にあることを憂慮する声は少なくありません。私も、日本で栄養カウンセリングを行って来て、それを痛感する場面に遭遇したことは少なくありません。原因がわからない症状、いわゆる不定愁訴と呼ばれるカテゴリーの症状の多くの背景には、依然としてビタミンB12の不足によるものが少なくない、逆にビタミンB12を適切な方法で摂取することで、症状の改善につながることが少なくないということでもあります。
日本では、「戦後、動物性たんぱく質の「摂取量」が劇的に増えたことによって、ビタミンB12が不足することはない、これだけの動物性たんぱく質を摂取しているのに、ビタミンB12をサプリメントで補う必要はない・・」と言う医師や栄養士がいます。また、血液中のビタミンB12を検査して正常範囲にあることがビタミンB12の不足していない背景だとも言います。 多くのアメリカの栄養療法医師が遭遇しているケースの中に、完全な菜食主義者やベーガンの人のビタミンB12の血液検査結果が、正常範囲をはるかに上回る数値である人がいます。私も日本で今までに3人同様のクライアントに遭遇しています。 もし、血液検査でビタミンB12が高い場合には、多くの医師や栄養士はビタミンB12の不足はないと判断するかもしれません。しかし、動物性のたんぱく質を一切口にしないベジタリアンなわけです。実は逆のケースもあり、動物性のたんぱく質を毎日豊富に食べているのに、血液中のビタミンB12の数値は異常に低いことです。
ここに「摂取量」と「吸収量」の盲点が存在することと、ビタミンB12の吸収と代謝の複雑なメカニズムがあるということでもあります。

来週からビタミンB12の不足による症状に入ります。

明日から週末です、皆さんよい週末を!
by nutmed | 2010-11-12 16:59