第980回 乳がん・子宮がんとメトホルミン

今から33年前に、カナダのBC州バンクーバー島にあるナナイモという田舎街に留学をしていたころ、ホームステイをしていた家族の長男が、アメリカオハイオ州にある Case Western Reserve大学の麻酔科の教授になったというメールが昨晩届き、弟のように可愛がっていた彼も、もう45歳になり立派になったものだと嬉しくなりました。 それにしてもあの時には考えられないスピードで、それも電子メールといツールのおかげで、瞬時に近況確認ができるようになったことはありがたいことです。

さて、今日はメトホルミンと女性のがんについて紹介します。
2009年、スペインのカタルニアにある病院のドクターの研究チームが、メトホルミンには、乳がんの増殖、転移や悪性度に深くかかわる遺伝子タンパク(HER2:Human epidermal growth factor receptor type2)の働きを抑える作用があることを発表していて、乳がんの治療だけでなく、予防にもメトホルミンが有効であることを報告しています。
2010年3月、オーストラリアの研究チームが、メトホルミンにはホルモン依存性(エストロゲン)の乳がんの抑制作用があることを発表しています。この中で、メトホルミンには、エストロゲンホルモンに依存して発症する乳がんに関わる、アロマターゼという酵素の働きを阻害する作用があることがわかりました。アロマターゼは私のブログの中で今までに何度も登場していますが、2010年5月13日のブログでアロマターゼを阻害する作用をもったザクロが乳がんの予防に有効であることを紹介していますが、メトホルミンにもザクロ同様のアロマターゼの作用を阻害する働きがあるということがわかりました。
この2年間に発表されたこれらの研究報告から、メトホルミンには、様々なタイプや異なる顔つきを持つ乳がんの細胞に対して、ほぼオールマイティに有効であることが考えられるということです。2010年6月にスイスのバーゼル大学の研究チームが行った、5年間にわたる調査の結果、メトホルミンを服用することで乳がんの発症が56%低下していることを報告しています。

子宮のがん(子宮頸がんと子宮体がん)の発症リスクは、肥満、インスリンに対する抵抗性、糖尿病との関係が深いことが報告されてきました。一般的に子宮がんの治療では、プロゲステロン(黄体ホルモン)を使うことが少なくありませんが、女性の中にはプロゲステロンに反応しない人がいます。2003年、アメリカのメイヨークリニックの研究チームが行った検討によると、子宮内膜の細胞に異型細胞(がん化する可能性が高い細胞)が発見された女性で、プロゲステロン治療では効果がでなかった患者に対して、メトホルミンを投与したところ、約1カ月で子宮内膜細胞が正常に戻った報告があります。また、2009年にはアメリカのノースカロライナ大学の研究チームが、メトホルミンには子宮の内膜の細胞のがん化を抑える働きがあることを発表しており、乳がんと同様に、ホルモンに影響を受けて細胞ががん化するタイプでも、インスリンや糖化が影響を与えて細胞ががん化するタイプに対しても、メトホルミンは有効である可能性が高いことがわかりました。

栄養療法を行う医師や、私が「薬」であるメトホルミンを糖尿病の治療だけでなく、予防や改善に処方したり、勧める最大の理由は、メトホルミンは薬ではありますが、その原料素材は植物(ハーブ)のゴーツルーであることと、ビタミンミネラル、ハーブを使ったそのほかの栄養療法のアプローチや、運動療法との併用に非常に有効な素材だるからです。

がんの治療に対して有効性が見出されはじめているメトホルミンですが、日本でもネット検索をすると様々な大学や研究施設でメトホルミンとがん治療に関する研究がおこなわれていますね。
by nutmed | 2011-01-12 06:49