第982回 メトホルミンの膵臓と大腸がんの抑制作用

この週末は今年一番の寒波来襲で、全国的に冷凍庫を思わせる気温に加え、各地で降雪が思わぬ影響を与えてしまったようですね。その1つが全国センター試験だったようです。受験生はこれからがラストスパートの追い込みです。体調を万全にしてください。

さて、今日はメトホルミンの膵臓と大腸のがん抑制作用についてです。

膵臓がん
膵臓は、人間の体の臓器の中でも比較的限界ギリギリまで働いてくれる反面、異常が中々見つかりにくい臓器でもあります。「物言わぬ臓器」とか「サイレントオーガン」なんて呼び方をされることもあります。膵臓のがんが見つかった場合、その進行度合はかなり進んでいることが多く、生存率はかなり低いがんでもあります。
また、膵臓の細胞ががん化する原因の1つに、インスリンがかかわっていることもわかっており、過剰なインスリンの生産と分泌を抑えることも、膵臓がんの予防になることが報告されてきました。以前から早期発見が重要なポイントと言われ続けているがんでもありますが、進行が早く、治療や予防も早期が決めてになるだけに、手ごわいがんでもあります。 2009年8月、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学LA校)の分子生物学研究所のチームの研究発表は、予防や治療が難儀な膵臓がんに朗報をもたらしました。 以前から、膵臓がんの成長と進行には、インスリンに似た成長因子(IGF-1)と、あるたんぱく質(Gタンパク)がかかわっていることが分かっていました。彼らは、IGF-1とGタンパクの作用をメトホルミンが阻害する働きを持っていることをつきとめました。このメカニズムとは別に、メトホルミンによって膵臓のがん化した細胞の寿命が短くなることも、2009年の8月に発表されたテキサス大学の研究チームによって報告されています。

大腸がん
大腸がんは、今世紀になって世界中で激増したがんの1つですが、その背景には食事内容やストレスがあると言ってもいいかもしれません。その増加は先進国だけでなく、発展途上国でもすでに死因の第2位まで増えていることを見ても、食事内容の変化が大きな影響を与えていることはわかります。
以前から大腸がんの進行とがん細胞の成長には、インスリンに対する抵抗性の有無、AGEs(糖化最終産物)
の関係を研究し報告してきた研究者は世界中にもたくさんいて、糖尿病患者が一般の人に比べて大腸がんの発症リスクが高くなる背景には、インスリンと糖化という、「糖のコントロール」にかかわる機能に影響を受けることが報告されてきました。 この日本でも、2005年に久留米大学の研究チームが、糖尿病患者の糖化作用が大腸がんの発症リスクを上げる可能性を報告しています(Yamagishi S, Nakamura K, Inoue H, Kikuchi S, Takeuchi M. Possible participation of advanced glycation end products in the pathogenesis of colorectal cancer in diabetic patients. Med Hypotheses. 2005;64(6):1208-10.)
メトホルミンをテーマで扱ってきたここ数回の中でも紹介していますが、メトホルミンにはインスリンの抵抗性を低くして、インスリンに反応することを促進すす作用のほかに、過剰に分泌されたインスリンを抑える働きがあります。したがって、大腸がんの発症を抑え、進行を抑えるために、メトホルミンは有効であるということです。
by nutmed | 2011-01-17 12:43