第1178回 幕間 ビタミンEと骨そしょう症の発表について

今朝の首都圏は昨晩からの雨が少し残ったものの、午前10時を過ぎたころから空は晴れ、ここ川越の空は青く高く、そしてなによりも気温がぐんぐん上がって春を感じさせるに十分な陽気の1日です。

さて、今日は脂肪酸の5回目の予定でしたが、昨日3月5日に、ビタミンEについての衝撃的なニュースが報道されましたので、この件について少し紹介したいと思います。
慶応大学が東京医科歯科大学、東京大学などとの共同で、マウスを使った動物実験の研究で発表したこの報告は、ビタミンEの過剰摂取が、骨そしょう症のリスクを高めるという内容のものです。ツイッターでもフフェイスブックでも昨日はこの話題で持ち切りでしたが、栄養医学研究所にも昨日、朝から晩まで電話とメールで、この件に関する問い合わせで大変な1日でした。
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私はこの発表の内容の全容をまだ見ていないので、メディアが伝えている内容での確認になりますが、その内容は以下のようです。「骨粗しょう症は骨がもろくなり、骨折の危険性が高くなる。骨は骨を壊す破骨細胞と骨を作る骨芽細胞の働きがバランスを取りながら新陳代謝を繰り返している。実験でラットに通常の摂取量の5倍にあたる量のビタミンEを8週間与えたところ、破骨細胞が大きくなって骨を壊す働きが4割強まった。同じ年齢の正常ラットと比べると骨量が減少して骨粗しょう症になっていた。」
この内容を見た消費者の多くが思い描くことは想像に難くないでしょう。 昨日は全国のオフィスやドラッグストアで「ビタミンE飲むと骨そしょう症になるんだって!」という話が飛び交っていたことでしょうね。
このニュースは昨日から24時間で世界中を駆け抜けて相当大騒ぎになっているようです。単にサプリメント企業だけの話ではなく、VE強化添加食を製造している食品企業にも栄養がありそうです。現在国内外のメディアの取り上げている内容を見る限りでは、どのコンポーネントのビタミンEが破骨細胞の活性に関わっているのか、トコフェロールの単独の関与なのか、トコトリエノールの関与なのか、α-β-γ-などどの分画の関与なのか、またd-なのかdl-なのかなどなど、あまりにも疑問が多すぎるのが現状ですね。
早速、この発表内容について、私のアメリカの友人ドクターや研究者に今朝メールを送ってコメントをもらいましたので少し紹介します。
シアトルで栄養療法クリニックを開業している親友のドクターと、ボルチモアで婦人科診療に栄養療法を取り入れているドクターのコメントですが、2人の共通コメントとしては、やはり私と同じく、現段階では論文の全容を見てないので、何とも言えないが、少なくともビタミンEのどのコンポーネントが破骨細胞の活性に関わっているのか、特定の分画だけの関与なのかが不明なので詳細なコメントはできない。また、2人はともに、この研究発表をした研究者は、世界中の巨大食品会社を敵に回すつもりでこのような研究をしたとは考えにくいが、この手の発表がマスコミメディアにどのよに取り上げられ、消費者にどのようなインパクトを与えるかを考える必要はあったかもしれないと言っていました(笑)

シアトルのドクターは面白いコメントをくれました。仮にほとんどのビタミンEのコンポーネントと分画が破骨細胞の活性に関与しているのであれば、おそらくは世界で最もビタミンEの摂取量の高い東南アジア諸国で骨そしょう症が医療経済にインパクトを与えるような報告があっても不思議ではないが、少なくとも私は見たことも聞いたこともないとのことでした。おそらくこの点から言えば、カナダやグリーンランドに住むエスキモーなどの民族や、厳格なベジタリアンでも同様なことが言えるかもしれませんね。
私も彼らも同じように考えているのは、ビタミンEが細胞の営みにどれほど深く関わっており、その不足がどれほどの健康被害をもたらすかについては、世界中で計り知れない数の研究され報告されていることもあるので、今回のビタミンEの摂取が骨そしょう症リスクを増大するという一点だけを捉えて見てしまうことは、木を見て森を見ないのと同じだとも思います。また、過剰摂取という点を考えれば、過剰摂取による体内環境への影響は、何もビタミンEだけの話ではありません。ビタミンミネラルは時として薬ではないので、多少過剰に摂取しても健康被害はないと考えている人が少なくありませんが、ビタミンミネラルも全く同じで、やはり過剰摂取は場合によっては重い健康被害を生みだすことになります。

いずれにしても、発表の全容を確認し、この件はいずれまたテーマに揚げたいと思います。
by nutmed | 2012-03-06 11:35