第1187回 アスパラガスとリポ酸

ようやく暖かくなってきたこのごろ。我家の庭にも様々な雑草たちがたくましく芽吹きはじめ、さながら寒さで縮こまっていた体が伸びをするような様は実に気持ちがいいものです。そんな雑草も、今年の主役のチューリップにとっては厄介なので、週末は額に汗して雑草取りに励みました。雑草取りのあとは、昨年秋ころからはまっている幸せな気持ちにさせてくれるお蕎麦を食べにでかけました。
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 喬彩庵というこの蕎麦店の蕎麦は蕎麦好きの喉だけでなく、頭も満足させてくれる蕎麦です。

さて、今日は、これからが旬に入るアスパラガスとリポ酸についてです。
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ビタミンB1、B2のほか、蕎麦にも多いルチンが多く含まれる野菜です。 皆さんの中にはアスパラガスを食べた後は尿が良く出て、トイレに行く回数が増えるという人が少なくないでしょう。これはアスパラガスには利用作用があるからなんですが、グリーンアスパラでも、最近日本のマーケットでも出回るようになったホワイトアスパラでも同じです。アメリカやEU諸国の民間療法(フォークレメディー)や栄養療法では、膀胱の痛みや腫れをともなう尿路感染症や、膀胱炎の症状緩和、結石の予防のためにアスパラガスを食べさせる方法が古くから継承されてきています。このほか、私もお勧めした経験のある症状には、高血圧と尿酸値の高い人、水分の摂取過剰、特に夏場の浮腫みによる疲労症状の改善にアスパラガスは非常に有効な食材です。利尿作用の背景には、アスパラガスに多く含まれるカリウムとアミノ酸のアスパラギンによるものです。
それと同時に、アスパラガスを食べた後の尿の少しケミカルな匂いが気になる人も多いのではないかと思います。この尿の匂いの原因は、アスパラギンでもなければ、カリウムでもありません。私自身、アスパラガスを食べ過ぎた3時間後から翌日にかけて尿の量も回数も多くなり、多少ケミカルな臭いを感じます。私はこの臭いをかぐと、30年前に留学していたカナダで、生まれて初めて遭遇経験したスカンクの放屁ガスの匂いを思い出しますが(笑) この臭いの背景にはs-methyl-3-(methylthio) と呼ばれる、アスパラガスを始め多くの植物が作り出す、硫黄を含んだ物質です。この物質はキャベツ、ニンニク、タマネギ、ブロッコリなど、臭いの強い野菜に多く含まれており、酵素の働きでメチルメルカプタンという臭気物質を作り出すためだとされています。ただ、全ての人がアスパラガスを食べた後の尿が臭うということではなく、アメリカの研究によると、尿が臭うのは匂いの原因となるs-methyl-3-(methylthio) を分解する酵素の有無によって異なるようで、この酵素の有無は遺伝的に決まっており、全体の50-60%の人はこの酵素を持っていますが、残りは持っていないことが報告されています。 つまり、私にはこの分解酵素が遺伝的に備わっているということですね。アスパラガスなどが持つs-methyl-3-(methylthio) に非常に似た構造の物質を持つ素材がサプリメントの中にもあります。「thio(チオ)」という部分を見てピンと来た人は良く勉強している人かもしれませんね。日本でも強力な抗酸化物質として重宝されているα-リポ酸がそうで、化学構造式からの名前はチオクト酸です。このリポ酸を飲んでから1-2時間くらいで尿に多少ケミカルな硫黄を含んだ、アスパラガスを食べた後の尿臭と同じ臭いを感じる人がいると思いますが、私もその1人で、やはりこの臭気まで分解する酵素が遺伝的に備わっているということになります。
実は、この分解酵素のことはこの1週間ほど前に見つけた論文で知ったのがはじめてでした。 今までクリニックと病院で私がカウンセリングをしたクライアントさんの中には、症状の改善緩和のためにα-リポ酸を勧めてきた人が数十人いますが、α-リポ酸を飲んでもその後の尿に臭いを感じないという人が数人いました。今考えると、おそらく遺伝的にこの分解酵素を持っていない可能性が考えられます。しかし、臭気とリポ酸の機能性には影響の差は確認されていないので、この遺伝子を持たない人ではα-リポ酸が有効でないということではありません。
もちろん、この遺伝子の有無がアスパラガスの利尿作用に影響を与えることはありません。
by nutmed | 2012-03-26 16:48