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第1318回 血糖降下剤によるビタミンB12不足

めっきり秋の様相が広がりはじめたこの頃ですが、一方で、この5年ほどの間、ホン若と穏やかな春と秋の季節感が昔に比べて少なくなったと感じるのは私だけではないのでは。ここ数年で毎年その傾向が強くなり、暑いか、寒いだけの季節になりつつあるようで、寂しさだけでなく恐怖さえ感じます。

さて、今日は、知人の紹介でこの6月から栄養療法カウンセリングを行っている、43歳の2型糖尿病男性について紹介します。
5年前に2型糖尿病と診断を受け、食事療法に加え、血糖降下剤を飲んで治療を続けてきているこの男性は、いわゆる肥満体形ではなく、中肉中背の均整のとれた体形の方です。私のところに紹介されてきた時には、インスリン抵抗性の背景が疑われたこともあり、食事だけでなくサプリメントの指導で、インスリン抵抗性を抑えるビタミン、ミネラルに加えて、機能性ハーブを摂っていただくよう勧めています。
糖尿病のケアをしている内科の主治医から処方されている薬は、ビグアナイト系のメトホルミン(薬剤名:メトグルコ)を3年前から服用しています。 この1年は、食事療法の成果もあって、糖尿病のモニタリング指標となる血液検査のHbA1c(ヘモグロビンA1c)の数値も6.2%くらいを維持しています。私のところに紹介された背景には、この男性が、今年の6月から異常に疲れるようになり、特に階段の昇降りや、重い荷物を持って距離を歩くことで異常に疲労感と倦怠感が押し寄せてくるようになったため、副腎疲労の可能性があるのではないかとことがありました。 男性の主治医は栄養療法に理解も興味もある医師で、早速男性のだ液コルチゾールの検査をお願いしたところ、結果は、副腎の疲労をうかがわせる数値ではあるものの、極度に副腎の疲弊を疑うような数値ではありませんでした。
この段階で、主治医と相談し、念のために貧血の可能性を考えて、血液検査を行ってもらいました。結果から、中程度の大球性貧血の可能性がわかりました。大球性貧血は 進行のスピードは比較的遅く、進行に合わせて体が順応することから、はじめは貧血症状がみられないこともあります。症状としては、息切れ、疲労感、全身の倦怠感、頭重感、顔面蒼白などが現れます。 主治医と男性本人には私からお願いして、ビタミンB12の状態を調べた方がいいことを話し、血液中のビタミンB12、葉酸、ホモシステイン及び尿中のメチルマロン酸の検査を行ってもらいました。ビタミンB12の体内での吸収と代謝を正確に知る場合には、血液中のビタミンB12を検査するよりも、ビタミンB12の代謝物としての、尿中に排泄されたメチルマロン酸を検査確認する方が的確にビタミンB12の動向が確認できます。しかし、残念なことに現在では、日本の検査センターでメチルマロン酸を検査分析してくれる施設は皆無で、アメリカまで送って検査をするしか方法がないことは非常に残念なことです。決して手技が難しい検査ではなく、歴史も古い検査なのでコストも安い検査にも関わらず、現在の臨床医学では、ビタミンB12の過不足からくる症状の背景を疑う医師も少なく、メチルマエオン酸の検査になど誰も目を向けなくなったようです。
この男性の検査結果ですが、結論から言うと、明らかにビタミンB12の不足が疑われる数値が分析され、大球性貧血の確定ができました。 主治医にお願いして、男性には1カ月間、毎週500マイクログラムのビタミンB12の筋肉注射を行ってもらったところ、筋肉注射をした日から3日間ほどは疲労感が全くなくなるが、その後は次の注射の日までは再び疲労感が襲ってくるとのことでした。
一方で、この男性の食生活を見ても、ビタミンB12が含まれた動物性のたんぱく質が極端に少ないわけでもないことから、今度は私のブログでもおなじみのレモン水を使った胃酸自己チェックを行ってもらい、ビタミンB12と鉄、葉酸の吸収には不可欠な胃酸の状態を調べてもらいました。結果は、胃酸が少ない状況ではありませんでした。 主治医と相談し、男性のビタミンB12が不足する原因は何か悩んでいたところ、過去の論文検索をしていると、男性が服用しているメトグルコという薬の成分が、ビタミンB12の吸収を抑制するという研究論文をいくつか見つけました。2000年にアメリカ、ニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学の研究チームに夜報告(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10977010?dopt=Abstract)を皮切りに、その後6年間にわたり、毎年、様々な大学の研究者によって、メトグルコ(メトフォルミン)がビタミンB12の吸収を抑制することが報告されています。
全ての論文を見ると、メトグルコ(メトフォルミン)を服用している患者の全てにビタミンB12の不足が見られるわけではないものの、30%ほどの患者でビタミンB12不測の症状が現れていることがわかりました。
早速、主治医に相談して、この男性に処方しているメトグルコ(メトフォルミン)を止めて、別な血糖降下剤に変更してもらいました。
先週金曜日、メトグルコ(メトフォルミン)の服用をやめて2週間目の男性のカウンセリングを行いましたが、この1週間ほどは疲労感もダルさもなくなり、体を動かしても不安が無いとのことです。10月中旬には再度メチルマロン酸ほかの検査を主治医にお願いしてあるので、検査数値がどのように変化しているかが今から待ち遠しいです。
メトグルコ(メトフォルミン)は、日本では2型糖尿病の患者への処方薬としては、ポピュラーな部類には属さない薬かもしれません。しかし、最近2型糖尿病治療のターゲットにもなりはじめた、インスリン抵抗性の改善効果は高い薬のため、処方されている人は少なくは無いでしょう。メトグルコ(メトフォルミン)を服用している患者さんで、この男性のような疲労感、倦怠感などがある場合には、主治医に相談し、大球性貧血とその背景にあるビタミンB12の吸収抑制を考えてみるといいのではないかと思います。
by nutmed | 2013-09-30 14:27