2009年 06月 04日
第587回 中高年に多いうつ、慢性疲労、肥満の原因 その7
トリプトファンは情緒にかかわる脳内神経伝達物質セロトニンを合成するときには不可欠のアミノ酸であることはお話しましたね。昨日、栄養カウンセリングにきたうつ症状を持ったクライアントさんの話を紹介します。ちょうど1週間前に初めてカウンセリングに来られた40歳前半の男性で、すでに主治医から「パキシル」という抗うつ剤(SSRI:セロトニンが再び神経細胞に取り込まれてしまうことを阻害する薬)を処方され、2カ月ほど飲んでいましたが、彼には食材、特にタンパク質と炭水化物の割合、食べ方の注意点をアドバイスするとともに、ひまわりの種をしばらく食べてみるように勧めていました。1日あたり50gを3時間おきくらいに小分けして食べてもらいました。ひまわりの種にはトリプトファンが豊富に含まれているだけでなく、必須脂肪酸、亜鉛も豊富に含まれていること、また満腹感もともなうので、非常に優秀な食材なんです。事実アメリカでうつ病の栄養療法を行っているドクターの多くがひまわりの種を「ナチュラルマインドブースター(Natural Mind Booster)」として勧めておりその効果も高いことがわかっています。
ちょうど1週間後の昨日2回目のカウンセリングにやってきた彼は、開口一番「先週カウンセリングの後にひまわりの種をすぐ購入して食べ始めたんですが、以前から頭の中にかかっていた霧のようなボーっとした感じがなくなり、睡眠導入剤を飲まなくても眠りに入れるようになりました。薬は通常とおり飲んでいますが、この2か月間、薬をのんでもこんな感じにはならなかったんですよ。これってひまわりの種のせいでしょうか?」
少なくとも、彼の生活環境はこの数週間変化がないこと、また新たな薬が処方されていないこと、そしてストレスの環境も大幅には変わっていないことを考えると、ひまわりの種に含まれるトリプトファンの影響であると私は確信しています。このクライアントの主治医は今まで血中セロトニンとトリプトファンの検査をしていないということだったので、彼に次回主治医のところに行ったときに血中セロトニンとトリプトファンの検査をしてもらうことを勧めました。
2005年にオランダのライデン大学の研究グループの報告をみると、急激なトリプトファンの不足がはじまると同時に、不安、情緒不安定、不眠、落ち込み、疲労などのうつ症状が現れるとい研究結果がでています。また、薬物治療を行っているうつ病患者では、症状が緩和してくる寛解期にトリプトファンの低下がみられることを報告しています。寛解期とは、症状が少なくなってはいてもそのまま完治するか再び症状が現れるかがわかりにくい状態ということになりますが、このオランダの研究グループは、うつ病の寛解期を迎えている患者の血中セロトニン量とトリプトファン量の変化に注意するべきであり、両者の量が急激に低下しているようであれば、トリプトファンの摂取を考慮するべきであると報告しています。現在うつ症状で通院している医療施設で血液中のセロトニンやトリプトファンを日常的に検査しているという話は日本ではあまり聞いたことがありません。
2000-2005年にアメリカで報告されている、健康な女性と拒食症の女性におけるトリプトファンの急激な不足に関する研究報告には興味深いことが報告されています。
健康な女性と拒食症の女性をグループわけして、この両グループには強制的に血中トリプトファンを不足させるための食事をさせました。結果としてうつ様症状が現れはじめたところで、今度はトリプトファン(5-HTP)を1日3回、1回あたり300mg摂取させ血中トリプトファンを上昇させるようにしました。結果、2週間後からうつ様症状は劇的に改善されはじめています。
すべてのうつ症状を持った方にトリプトファンを摂取させることで事が解決するということではありませんが、少なくとも症状が現われてはじめた初期の段階で、血液中のセロトニンとトリプトファンの量を検査してみることは、その後の改善のためのアプローチにおいて重要なてがかりになることは間違いのないことだと思います。